粉砕された12年 前編

 生徒が大学生になってから進まなかったテスト準備もようやく形になり、受験への運びになった。
 二回生の秋だった。
 生徒にとって初めて上級グレード試験。
 結果を待ってる間の毎日は気が気でなかった。
 個人レッスンだけでの単独の挑戦。
 自分の指導能力も試される。
 期待と不安が入り混じった待ち時間。
 
 

 上級のグレードテストは、都市部でほぼ毎月行われている。
 各楽器店を通さないから、申し込み手続きは生徒個人の作業。
 生徒が動いて報告を受け、次の手順へアドバイスして進んでいく。
 だから先生はノータッチ。
 それは有り難い。お金を立て替えなくて済むからね。
 反面、その都度生徒からの情報無しには物事は進まない。

 合否の通知も生徒の家へ直接届く。
 
 テスト当日の雰囲気も様子も、生徒からは何も伝わってこない。

 時間は過ぎて行く。
 どうしようもなく私は生徒の自宅に電話した。
 不合格だった場合、項目別の採点結果によって次にどうするかを判断していく。
 それが無いと、手も足も出ない。
 保管して教室まで持ってきてもらわないと…。
 とにかく説明し、母親に頼んでおいた。






 当日、試験会場に数分遅れて失格になってた事を、
 私が知ったのはそれから10日もたってのこと。
 「嘘ついてました。」生徒はそう言った。

 いつものレッスンの曜日。
 生徒が教室に入ってすぐ、テスト合否連絡の話題を出すと、さらっと返事が返ってきた。

 そして母親に打ち明けたのは、前の週のレッスンが終わった後だと言うのだ。
 教室を出て母親の待つ車に乗り込んで、これ以上隠していられない、そう思って告げたらしい。

 遅刻したのは仕方がない。

 遅れそうだと思ったら試験会場に電話すればいい。
 または私の所へか、母親にでも電話してみたら何とかなった。
 この時生徒はもう20歳になってた。
 だからそれくらいの知恵はある。 

 ただ差し迫った状態ではなかったのだ。この生徒にとって。

 元々必要としていないもの、気の引けるもの。
 気が進まないものだったので対処することなくやり過ごしてしまった。
 

 そういうことだった。



                          (2006年 秋)






ノンフィクション
『エリート志向の闇~平気で嘘をつく子供』

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