会社名を言わない女

 秋、一度だけ、親子と顔を合わせる機会があった。
 そして母親とは数分、言葉を交わした。
 決まったという就職先の会社名を尋ねたけど、母親は答えずに別の方へ会話を流してしまった。
 雑談の流れの合間にだったので、しばらくたってもう一度尋ねたけど、同じように答えることは無かった。
 
 内定した企業名を言わないのは、息子に大学名を人に言わないよう責め立てたのと同じ理由だと思う。
 有名じゃない会社だから。一流じゃないからところだから。
 そういう理由みたいね。


 たぶん私だけでなく他の人から聞かれても、答えないんだろう。
 言う必要が無く告げずに済むのなら、そうしてるんだと思う。
 親戚や友人知人、ご主人の会社関連の人達、周囲の人皆に同じ対応してるはず。このお母さんは。

 ここまで気を許すことなく、ガードしたいものって何なんだろう?
 
 例えば親戚や、友達に弱味を見せたくないとか、そういう事で聞かれて言葉を濁すのは有りかもしれない。
 対抗意識を持っていたり、張り合う関係であったり、それなら少しは分かるけど。

 私はこのお宅とプライベートな関わりは無いし、しゃべったとしてどんな支障をきたすの?
 通っていた音楽教室の先生にまで、隠さないと守れないものっていったい何なのだろうと思う。
 虚勢を張っていないと成り立たない。
 それほどに一流、ブランド信仰に取り憑かれてるのかと驚く。
 
 子供が有名大学と一流企業に所属してることでしか、他人と対峙できないとは。

 裏を返せばそれは「自分は一流です」って前提があるから生まれる意識。私からすれば自意識過剰のように思える。
 他人への配慮が一流とは言えない人が、何格好つけてるのか。
 習っていた間の先生への態度、姿勢は三流以下だったのに。
 私が味わったのは、人間的なズルさとセコさと冷たさ、それだけ。

 品位を保つどころか、既に欠点をさらし過ぎてて…。
 平気で醜い姿をさらしておいて、自分の子供の就職先は隠す。
 あまりにもアンバランスでおかしい。





 それに息子さんに失礼。その会社にだって失礼。
 息子さん、いい気はしない。
 じわじわと子供を傷つけてることに気づかない。
 自分の理想が先にあって、そこから外れると子供に不平不満をぶつける。こうやって小さな時から否定的なイメージを植え付けてきたんだと思う。

 有名大学と一流企業に所属さえしたらいい。
 それが全てで後は何でも有り。
 だから価値基準、変…。


                             (2008年 秋)









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『エリート志向の闇~平気で嘘をつく子供』

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