「靴に恋する人魚」感想

 ドドは子供の頃、足が悪く車椅子で生活していました。
 毎晩、両親が絵本を読んでくれました。
 そんな彼女は手術を受けて、普通に歩けるようになりました。
 ドドは成長し、パフスリーブの似合うキュートな女性になります。

 彼女の楽しみは美しく可愛い靴を買い集める事。
 一人暮らしのお給料は趣味のお買い物に費やされます。
 職場は飛び出す絵本を制作している出版者。ドドは会計係ですが、電話にも出るし使い走りもするし、掃除もするし、お茶くみもします。
 彼女は悟っています。
 「どこへ行っても同じ。」
 
 ビッグ・キャットというイラストレーターの所へ作品を受け取りに行きますが、ドアの隙間から封書を差し出されて言葉を交わした事がありません。

 ある日靴の手入れをしていた彼女は歯が痛くなり、スマイリーという歯医者へ行きます。

 歯の治療と同時に王子様との出会いがありました。
 スマイリーはドドを食事に誘います。
 ドドは黒い羊と白い羊のことを彼に話します。
 二人はたくさんの事を語り合いました。
 

 ドドとスマイリーは結婚し新居に引っ越します。
 小さな部屋はドドの靴を収納するスペース。
 
 ビッグ・キャットから贈られた絵を二人で飾ります。
 洗ったカーテンを二人でかけます。
 スマイリーの誕生日にはケーキを作って蓋をかぶせて手渡します。
 彼は開ける前にそれを振ってしまいました。

 夜目覚めると、ドドが靴の部屋で眠っている事もありました。
 ドドはスマイリーに素材別、靴のお手入れ方法を教えます。


 ドドの靴が増え過ぎて、スマイリーは困ってしまい、これ以上靴を買わないように彼女に言います。
 鳥を観察に行きます。
 動物園にも行きます。

 ドドはショーウインドゥの靴を見ないよう歩きます。
 ある日ビッグ・キャットの家から出てきた猫を追いかけて探すドド。猫を見つけビッグキャットに渡します。そこは靴屋の近くでした。
 ドドは新しい靴を見てしまいます。
 そして試着。
 けれど断って店を出ます。

 その後彼女の身に悲劇が…。



 靴を買うのをあきらめたのに、なぜこんなストーリー展開になるのか考えさせられました。

 ささやかな幸福の中で誰も傷つけずに暮らすドド。
 スマイリーは彼女を愛し、彼女がいるだけで幸せ。
 彼の忠告を無視して新しい靴を買ったわけではないのに。


 再び車椅子生活になったドド。

 時を経て夫、スマイリーの優しさと深い愛に気づきます。
 スマイリーの目がかすんで、クローズした歯科医院を訪れ「ありがとう。」とただそれを伝えにドドはやって来ます。

 今手にしている幸せに気づいたドド。
 その瞬間から、世界は変わりました。



 ドドは自分の好きな靴を買い揃えて、自分だけの楽しみを増やしてきました。
 靴は自分の好きなものです。
 自分の持ち物を愛するのは自己愛の象徴ですよね。
 ドドは結婚して他人と暮らしながらも、自己愛に執着して離れようとはしませんでした。

 そんな彼女は自分の足を失うと同時に、「自己愛」も失ってしまいました。
 強い「自己愛」と共に生きてきた彼女はそれを失ったために空虚になったのです。

 自分の中が空っぽになったため、他人の事が見えなくなりました。

 他人の気持ちが見えなくなりました。

 無口になってどこへも出かけず、植物のように暮らしました。
 靴の収納部屋にも入ることはありませんでした。
 やがて扉を絵でふさぎました。



 ある日、靴屋の女主人が仕向けた女の子からマッチを買います。
 マッチを摩るたび毎に見えたのは、自分が手にしている幸せでした。
 初めて自分が今どんなにスマイリーに大切にされ、幸福な生活を送っているのかに気づきます。

 


 閉ざされたままの靴の収納部屋。
 その扉が開けられました。
 中の靴は箱に収めて引き取ってもらいます。
 ドドは靴を手離します。
 
 「自己愛」との決別。
 それを象徴したシーンでした。


 靴は靴屋に引き取られ、お客の絵本と交換され、その絵本は教会に寄付され子供達に読まれます。

 自分の中だけで自己完結していた「愛」が他者に向けられ、そして世の中、社会に還元されていく構図を見事に描いていました。
 

 物語の中で多くの童話と多くの教訓めいた台詞が出てきましたが、その数々より靴を手放すシーンは大きなインパクトがありました。



 ビッグ・キャットがドドを訪れ、箱を手渡します。
 ドドは開ける前にそれを振ります。
 ビッグ・キャットのリアクションでそれは振ってはいけない物だと分かります。
 子猫が入っていました。
 家でふさぎこんでいるドドを気遣ってのことです。

 ラスト近くでは再び絵を贈ります。
 ドドに子供が生まれそのお祝いにです。 
 開ける時のリアクションがまた同じです…?
 予定より早く生まれてしまったため、描いた星座がズレていたからです。

 スマイリーの静かでほのぼのした優しさは映画の中でたくさんたくさん表現されていました。

 反対に、ビッグ・キャットの出番は少しでした。
 ほとんどしゃべらない変わり者芸術家に描かれていました。
 しかし言葉少ない彼女の、その行為は優しさに溢れていました。



  

 可愛くてポップでオシャレなインテリアと小物と衣装と…。
 全編、絵本のように甘い映像でした。
 それらに込められた苦いメッセージ。

 そして寡黙で静かに支える優しさ。
 抑えて控えめな情愛の深さ。

 そういう他者への「愛」に満ちた作品。


 不思議な不思議な物語でした。

 


監督
 ロビン・リー
キャスト
 ビビアン・スー
 ダンカン・チョウ
 タン・ナ
 チュウ・ユェシン
 ラン・ウェンピン
 リー・カンイ
 J.A.M.イン・ウェミン
 ラム・ジーチョン




製作国 台湾
時間 95分
公式サイト www.ffcjp.com/kuts...
公開日 2006年9月9日(土)公開

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 靴に恋する人魚/ビビアン・スー、ダンカン・チョウ

    Excerpt: いつの間にかTVで見掛けなくなったビビアン・スーちゃん。どうしてるのかなぁと思ってたら、昨年の東京国際映画祭にこの作品が出品され、そこに彼女の名前を見つけたときにはちょ ... Weblog: カノンな日々 racked: 2011-08-02 21:29
  • 「靴に恋する人魚」感想 途中まで5つ☆

    Excerpt: 2005年公開映画。ずっとずっと待ち続けてやっとレンタル開始、見ることができました。想像していたより、ずっとPOPで可愛くて、私好みのど真ん中の映画でした! ↓クリックで拡大します Weblog: ポコアポコヤ 映画倉庫 racked: 2011-08-03 15:10