妻の支配する家

 奥さんの本性に薄々気づいていても、見て見ぬ振りをするか、やり過ごすしかないあなた。
 やだね、臆病で。
 ま、人の事は言えんけど。
 誰だってぶつかりたくないし、家の中は波風立てたくない。

 子供の防波堤になってやれるのはお父さんしかいない。

 ちょっと話しただけなら、常識的な普通のお母さん。
 だから余計厄介。
 単に教育熱心でいい人と映る。誰も批判はしない。

 少しやり過ぎだと思っても、周囲は何も言わない。
 他人の家の事に誰も口を挟まないよ。
 遠巻きにして当たり障りなくやっていくだけだから。
 誰でもそう。それで問題はない。


 で、そうやって誰もが制止できないでいるうちに、病巣は静かに深く広がった。


 もう「大人」になってしまった子供たち。

 この先、社会の中でそつなく無事に暮らしていくでしょうね。
 問題ないのは遠巻きにできる間柄での事。
 母親が、窮屈で窒息しそうな空間に子供を押し込めて育てた。
 その小さく狭い世界観。
 
 こんな生徒と保護者、他にいなかった。


 子供がかわいそうだよ。


「計算された幼さ」 
 高校生の時、楽譜を買わなかったり、発表会費を持って来なかったり、楽譜購入を母親に告げてなかったり、そういうひとつひとつ、やろうと思えばできた事。
 やろうと思ってできるのと、出来ないのとでは全然意味が違う。
 できるけど、わざとしなかった。
 出来るけどわざと何もせず、相手が動くのを待ってるだけ。

 こっちが走り回ってるのを承知で、いつも知らない振りをしていた。

 生徒は家の中で、実際より幼い自分を演出してたような気がする。
「日常化した嘘」
 この人は「言えない子。」ではなく、「わざと言わない大人。」になっていた。
 たぶん高校生のあたりからそういう変貌を見せ初めて、大学入学を機に更に状況は悪化していったのだと思う。


 報告する必要がある大切な連絡事項も、自分の不利益になれば隠す。
 そのために嘘をつき、目先の利益や打算を優先させるようになった。
 子供の頃と違うのは、後ろめたさがなくなった事。
 バレても気まずくないし、平常心で居られる。
 既に感覚は麻痺してて、嘘をつくのが常態化していた。

 たかだか音楽教室での出来事だなんて思うのは大きな間違い。
 この人の今後の行動パターンの縮図、型みたいなものだから。


 社会との関わりの基礎。

 母親との信頼関係を築けなかった子供。
 人との関わりで一番必要な、その基盤がない。

 加えて母親の狭い心。
 その空間の中で息を詰まらせるように大きくなって出来上がった世界観がどんなものか、想像してみてよ。
 

「高慢な親を欺く」 
 親子間の嘘は、社会に拡がっていく。
 それをこの親子は分かっていない。
 まるで音楽教室の先生は社会の一員じゃないみたいだよ。
 私はこの親子に対して社会の一部だから。

 それを知っていないと相手の気持ちが分からない。
 感情を推し測れない。
 そして相手が何を怒って、何に傷ついてるのかも分からない。


 
「薄っぺらな知性」    
 「作曲は難しいけど、個人レッスンで習う演奏は楽譜通りに弾くだけだから、簡単だと思うんです。」 母親に昔、こう言われた事があった。
 息子がまだ小学生の頃、「グレード取得させます。」って一人で教室にやって来て、私にそう伝えた時の事。私は黙って聞いてるだけだった。
 その頃、生徒は練習を嫌がってた。
 そんな先の高い目標を掲げられても、目の前のハードルをひとつひとつ超えるのに手一杯の時に。
 あまりにも現実感がなくて、その時は聞き流してやり過ごした。

 楽譜通りに弾いても合格しなかった。
 10年後の結論がこれ。




 今もハッキリとはしてないんだけど、このお母さん、音楽のグレード試験を事務系の技能検定と性質が同じと思ってるんじゃないかな。
 事務関連の技術は速さと正確さが合格ラインを決める。

 でもグレードの合格ラインって制限時間内に指をどれだけ速く正確に動かせるかじゃないからね。
 一番必要なのは、演奏にどれだけ伝わってくるものが有るか…だよね。
 これって理屈じゃないし、言葉にし辛いんだけど。
 だから事務関連の技術資格と、音楽の資格は異なるもの。 
 これをこのお母さん認識してなかったのかもしれない。
 

 息子は独学でピアノの超難しい曲をすらすら弾けるようになった。
 模倣至上主義。
 コピーの音。
 真似という枠組みの中だけで完成してしまった。
 これがこの人の育つ過程で培ったもの。


 退屈で気の遠くなるような指の訓練、単調な指の鍛錬を一切飛ばして、華麗な曲の演奏という美味しいとこ取り。
 なので音の強弱は均一化されている。

 生の演奏でもイヤホンから聴き取った音のように聞こえるのはそのため。 

 


 自分にとって都合のいいところだけ取ろうとする。
 自分が楽しむ事に終始してる。
 オルガンのグレードテストがつまらなく感じるのは当たり前。
 元々出来上がった芸術性の高い贅沢な曲を奏でるほうが楽しいに決まってる。

 息子はそちらへ傾倒し、オルガンのレッスンは上の空になってしまった。



ノンフィクション
『エリート志向の闇~平気で嘘をつく子供』の紹介記事でした。

 よろしければ他の紹介記事もご覧下さい。
 無言の圧力
 痛い保護者
 近所で楽譜を買わない理由
 酸 欠~欲望の上限
 冷 淡~希薄な間柄
 悪 意~人に厳格、自分はルーズ
 音楽教室の痛い親子
 平気で嘘をつく生徒

 軽 視~お高くとまった二人
 麻 痺~狂った神経回路

 会社名を隠す女
 送迎は燃費の悪い車で
 鈍 感~強欲の果て
 機械じかけの音色~調子を合わせる怖さ


 あらすじ 
 タイトル一覧

 全記事のタイトルは右サイドバーのテーマ<独裁者>
 または<嘘>をクリックして下さい。
 前半と後半に分かれて記事が順に並びます。



この記事へのコメント

この記事へのトラックバック