口腔崩壊~最初からの間違い

 何が間違えていて、何が正しかったのか。自分がどんな家庭で育ったのか。当たり前の親なら、まず子供の歯の事を気にかける。ほんの少し想像力を働かせれば分かる。相手の立場になって物を考えれば、生き易いか生き辛いか、すぐに分かるはず。
 現実感
 それが両親には欠けていた。


  *   *   *   *   *   *   *



 長い年月を経て、前歯のブリッジがとうとう限界にきてしまった。
 ためらってる事態ではなくなり、歯の治療に通い始めた。
 もう数年前から不具合を感じていたのに、どうしても歯医者を訪れる事ができなかったのだ。

 ある程度覚悟はしていたが、上の前歯は義歯にするしかなかった。
 装着して最初に食事をした時はさすがに落ち込んでしまった。

 しかし治療は上、前歯だけでは済まなかった。
 状態は私の想像を超えていて、上の左右両サイドの歯、3本ずつ、計6本を削って被せる自体になった。
 骨が減っていると言われた。
 できるだけ長く持たせる事を考えたら、3本を繋ぐ必要があるらしい。
 削った一本一本の歯に芯を取り付けて、繋いで支えるそうだ。

  

 辛い治療が続いた。
 ちょうどその頃、トンネルの天井版崩落事故があって何度もニュースで流れるのを聞いた。
 「劣化」「老朽化」というワードが突き刺さるように感じた。
 天井のボルトが痛んで崩れ落ちてくる。抜け落ちてくる。
 全然関係は無いのに、まるで自分の口の中の事を言われてる様な気がした。

 口腔崩壊だ…。

 治療が進むにつれて不安が募ってきた。
 思ったよりも深刻な状況に外科手術に対応できる病院に代わった。

 私はもう失敗できない。
 だからインターネットで探しに探して、ここなら大丈夫だろうと自分なりに選んで決めた。
 電車に乗って30分の歯科医院。
 自分のために歯医者を探し、少し遠くても通っている。
 今は治療の最中だ。




 上の両サイドの骨が減っているのは、噛み合わせの悪さが原因だと診断された。
 義歯を装着するために両サイドの歯に金具を嵌める。
 骨が減っているところへ、そういう力が加わると危ないそうだ。
 それで削る必要があった。

 両サイド3本ずつ、計6本の歯は普通より内側に生えている。
 口の中が狭くなっているのだ。
 ずっと以前からそれには気づいていた。
 歯を磨いている時、虫歯にかかってないかをチェックして、そういう事に気づいていた。
 その噛み合わせの悪さも正す必要があるらしい。
 正しい位置にずらして被せ物をするらしい。

 それは本来永久歯が生えてくるはずだった位置に、という意味。




 選択肢が多い訳ではない私の歯の状態。
 大人になってからは確かに自己責任だけど。

 一番大切な時期の誤りで、正常な歯並びが手に入らなかった。
 基礎の段階での失敗。

 最初が肝心。
 最初に間違えてしまうと、その後は人より努力して節制して生きても追いつかない。






 



 





 秋からの歯医者通いがきっかけで、いろいろな事が見えてきた。

 何が間違えていて、何が正しかったのか。
 幼少の頃かかった近所の歯医者の判断ミス。
 両親の無策。

 そして自分がどんな家庭で育ったのか。 
 改めて知らされる事になった。

 私が自分の歯並びを気にしていた事は正しかった。
 「口が小さいから見えへん。」と言われたけどそうじゃない。
 私の感覚は正常だった。
 当たり前の親ならまず子供の歯の事を気にかける。

 ほんの少し想像力を働かせれば、
 相手の立場になって物を考えれば、
 生き易いか生き辛いか、すぐに分かるはず。

 現実感。

 それが両親には欠けていた。


 レジャーや行楽とは無縁の家だった。
 家族3人で旅行した事も、桜も紅葉も見に行った事が無い。
 でもそんなことはどうでもいい。

 正しい歯の治療を受けたかった。
 大きな信頼できる病院を探して。
 設備の整った病院を探して。
 歯に知識のあるお医者さんを探して。
 治療を受けたかった。

 歯の治療は受けたかった。



              尼崎の異常な家庭 №6 口腔崩壊




 尼崎の異常な家庭
 №1 折れた乳歯
 №2 永久歯の異常
 №3 病院を探さない親
 №4 間違いだらけの治療
 №5 矯正できたのに

 №7 父はギャンブル依存症
 №8 周囲と協調しない母
 №9 一生分のストレス
 №10 他人より遠い親
 №11 棘のある他人
 №12 肩身の狭いドライブ
 №13 ミシンと埃の家
 №14 要らない物があふれた家


この記事へのコメント

この記事へのトラックバック