裏目に出た職人気質~収入が消える家

 私が幼少の頃から生涯、外へ働きに出た母の姿を見た事はない。
 いつも家にいて作業場で洋裁をしていた。
 ミシンを踏んでいない時は手縫いの細かい作業をしていた。

 仕事はお客様の採寸から始まる。
 その前にデザインの打ち合わせをするのだが、生地はどちらかが用意するか、お客様が持ち込まない時はこちらが商店街の生地屋さんへ行き調達する。

 ボタンやファスナーもストックに適切なものが無ければ、裁縫用品の店に行き購入する。

 新聞紙に製図を書いて切り抜いて型紙を取る。それを生地に乗せて縫い代を余分にチャコで印を付けてから裁断する。
 オーダーメイドなので仮縫いをする時もある。
 しつけ糸を何本も針に通す必要があった。
 お客さんに来てもらって体型に合わせ調整する。
 
 それから本縫いに入る。
 ミシンがけと針仕事を繰り返す。
 スーツなどは襟に芯を貼り付ける。その時のアイロンがけ。
 体重をかけて叩くようにアイロンをかける時もあった。

 ドンドンと床に響くような重い音がする。
 
 細かい手作業の針仕事が続く。

 どんな好きな仕事でも長時間労働は神経をすり減らす。
 金曜の晩も土曜も日曜も関係なく、母は作業場にいた。

 父親が収入を競艇で使わなければ仕事量を減らせた。


 母が仕事をするのは私が生まれる前からの事だ。
 結婚する前からの事だ。
 だけど自分の手作業で得た収入を、有意義に使うのと借金の穴埋めに使うのとでは大きな違いがある。






 貧しくても子供の歯は正常な位置に生えてくる。
 テレビのニュースや報道番組で世界の様々な国や地域の子供たちの映像を見る事がある。
 彼らの歯並びは皆、正常だ。

 親がいてもいなくても、それは関係ない。
 人の歯はしかるべき位置に自然に生えてくるものだ。

 私の歯は作られた異常。
 そうとしか言えない。

 金がかかるから保育園に預けなかったと聞かされた。
 家に置いた幼い私は母の仕事の邪魔だった。
 それで口の中に常時、長時間残るお菓子を入れ続けた。
 何かを食べている間は静かになる。
 乳歯を全部虫歯にし、上の前歯が折れたのを歯医者が放置。
 異常な位置に生えてきた永久歯を元の歯医者に見せに行っただけで、別の医院に代わらなかった。
 真剣に考える事もせずに、関心を払わなかった。

 両親は歯並びが良かった。
 だから相手の立場になって物を考えることができなかった。
 私の立場になって何かを考えた事はない。


 


 精神疾患を患った父と、よく相手を見極めずに結婚した母。
 離婚の決断を早く出さなかった母。
 二人の作り出した異常な環境が私の歯に現れたのだ。




 お見合いして結婚を決めて、次に会ったのが式の日だったという。
 
 仲人さんや相手の家族の言う事を鵜呑みにした母。
 いくら昔の形の縁談だったとはいえ、どんな相手かを知ろうともせず、一度も交際せずに結婚するとは。
 新婚旅行や指輪すら無かったらしい。
 最初から間違えている。

 私を生むまでに5年もあったが、離婚に踏み切らなかった。

 信頼関係を築けない結婚生活を続けた。
 見栄や体裁、世間体なんかにこだわる事はなかった。


 決断するなら早い方がいい。
 私が生まれる前なら身軽だった。
 私が生まれても実家に戻ろうと思えばできた。
 母の実家は歩いて15分くらいのところにあったから。
 離婚して実家に戻る方がまだ良かった。

 そんな風にアドバイスをする人はいない。
 父は精神疾患だから結婚して子供ができても治らないと。
 



 母には知識が無かった。
 歯の健康の知識が無かったように、幼児の心理や児童の心理にも知識は無かった。


 大人同士の関わりだったら何の問題もなかった。
 大人で他人同士の関わりだったら何の支障もなかった。

 でも私は生まれ育ったから。

 あの家庭で生まれ育ったから。







 尼崎の異常な家庭
 №1 折れた乳歯

 №7 父はギャンブル依存症
 №8 周囲と協調しない母
 №9 一生分のストレス
 №10 他人より遠い親
 №11 棘のある他人
 №12 肩身の狭いドライブ
 №13 偉そうな伯母
 №14 要らない物があふれた家

 有害な親~希望がない家

 ケンカが絶えない家~阪神沿線の街で




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