解放的なバイト先~重圧で息苦しい家

 この人も大学生になってからは、バイトでお小遣いを稼いで、色々な職種を経験してるみたいだった。レッスンの合間や、終わってその時の気分でしゃべってくれたり、時々ではあるけどそんな話題が出ていた。

 帰り支度をしながら「食べられるからいい。」坊やはそう言った。
 
 飲食店でバイトしてると、休憩時間とか食事時なんかに賄いのご飯が出るよね。
 それ食べられていいって意味だよ。
 そこでご飯が食べられるから、自分のお小遣いを使わなくて済むし、家で食べない分、食費が助かる。たぶんそういう事なんじゃないかな。
 まあそんな深い意味は無いと思う。
 一般家庭の大学生の感覚。普通で自然に出てくる言葉。
 そしてどちらかというと、家計を切り詰めていたり、あまり贅沢できない家の学生が持つ感覚じゃないのかな。

 
 大学2回生の冬の事だったと思う。
 レッスン中、「指怪我してるんで…」と言って、私が「どうしたん?」と尋ねると廃油を石鹸に加工するのに使う、薬剤か何かの缶を開ける時、缶切りで指切ったんだって。
 後でそれ何のバイト?って聞くと「うどん屋」だと話し始めた。
 その時、大学生になって最初のバイト先が居酒屋だった事を聞いた。

 皿洗いで手が荒れたり、指切ったり飲食業は大変だね。

 賑やかで活気のある店の雰囲気が好きそうな感じ。話し聞いてるとね。
 接客が好きみたい。それに庶民的で気取らない場所だよね。フランス料理店みたいなパティシエとかシェフがいるお店とは違ってね。

 この人こんな仕事ができるんだ。そう思った。
 私が想像してたのとはやや違ってた。
 コンビニとか本屋とか、CDレンタルショップとか、たぶんそんな所かなぁと思ってたから、意外な感じがした。
 確かにそういう所だと、ご飯は出ないもんね。
 お弁当じゃなく、できたての熱い料理が食べられるしベストだよね。




 ふと出る言葉に家の経済状況が現れたりする。
 そしてバイト選びだからこそ、その人の気質や求めてる空気みたいなのがハッキリ出るのかもしれない。


 お酒の入った開放的な店内は、家の中の空気とは正反対、そんな気がする。
 
 家の中の息苦しさとは反対のガヤガヤとした場所で働いて、気分転換できるのかもしれない。

 忙殺されてる間は余計な事を考えずに済む。

 重圧を忘れられて楽になる。そう思う。
 
 






 母親に従うわけでもなく、反抗するわけでもなく、ただ車に乗っかってここへやって来るこの人。

 親と意見が対立して口論になって、暴力を振るったり、家を飛び出したり、世の中にはそういうケースもある。親と価値観や生き方が違うのは別に珍しい事ではないよ。反抗するかまたは対話して説得して自分を通すか、どちらかなんだよね。
 どっちでもいいけど、そのどちらかでないと自分を誤魔化した状態。
 キツイよ、それは。
 だけど自分を主張して母親と決定的な対立が起きたら、家の中の空気が益々険悪なものになる。 
 できれば当たり障り無くやって行きたい。今のこの生活を維持していきたい。
 そういう事だよね。
 誤魔化す方がまだまし。
 この人にとってはそれが最良の選択肢なんだろうね。


ノンフィクション
『エリート志向の闇~平気で嘘をつく子供』

 タイトル一覧

 「高所得で貧しい家庭」 
 「豊かさに囲まれた貧困」  
 「貧困から生まれる悪意」 
 「育ちの良さと卑しさと」 


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