広がる不幸~要らない物があふれた家

 精神疾患のある人を、無理に結婚させても不幸が広がるだけ。
 何もいい事はない。
 一緒になった相手にも精神的な不健康がうつっていく。

    *   *   *   *   *   *


 叔母(父の妹)のアドバイスをよく聞いていた母。叔母は公務員だった。母よりは学歴があったのだ。知識も教養も上だったに違いない。
 母は権威や肩書きに弱かった。
 自分より優れていると思う相手の言う事をよく聞き、真似をした。

 それで子供の習い事も真似をした。自分の子供にもそうさせた。

 
 対抗意識を燃やしているのを悟られないようにしていた。
 叔母さんの家にお邪魔する時、「うちの方がピアノが大きい。」この言葉を絶対言うなと、あらかじめ私に言い聞かせた。
 叔母さんの家で私は、勧められたおはぎに手をつけず、黙って固く縮こまって座っていたのを今でもよく覚えている。



 ピアノが家に搬送されてきた日の事も覚えている。

 私はそれを一緒に楽器店などへ見に行った記憶は無い。
 母がひとりで注文しに行ったのだと思う。
 中央商店街に新響楽器があった。たぶんそこで購入したのだろう。
 私を音楽大学へ入れると勝手に決めていた。
 ひとりで勝手に決めていた。
 
 そんな所へ入りたいと思った事は一度もない。


 子供に期待を託し、舞い上がり過ぎて現実が見えていない。


 ピアノより歯が大切だ。

 自分の自己満足で、次々と私に必要ない物を与えた母。
 文化的価値はあっても、それが必要かどうかは別問題だ。
 本当に必要なものが真っ先に与えられない家庭だった。
 だから前歯が異常に生えても放置した。

 私に必要だったのは正常な位置にある歯で、それ以外のものは後で良かった。
 
 大きな病院で一度も検査を受けた事が無い。


 当たり前の親ならそうするはずのところを。

 精神疾患のある人を、無理に結婚させても不幸が広がるだけ。
 何もいい事はない。
 一緒になった相手にも精神的な不健康がうつっていく。







 自分の製作した服が大切。
 仕事で多忙にもかかわらず、趣味は刺繍だった。
 自分の作品をとても大切にしていた。
 ピアノカバーは埃がかからないよう、透明ビニールを被せていたし、洗濯は自宅でもできたと思うがクリーニングに出していた。
 そうやって自分の刺繍を愛していた。

 マンションで二人で暮らすようになったら、今度は木彫りを始めた。
 同じように自分の木彫りを大切にした。
  
  
 常に私に要求し、期待していた。
 私に何かを期待するというのは愚かな事。

 与えられたものしか返せない。
 与えたものしか返って来ないのだ。









 今、私は自分のために病院を探し、歯の治療に通っている。

 自分の本物の歯に勝る物は無い。

 

 自分の中にあった漠然とした不安の正体。

 それは今でも何なのかは分かっていない。 


 簡単に話しただけでは伝わらない。

 他人に理解してもらえるまで話すには、それなりの気力がいる。

 それでもそうする必要があるのだと思う。





               END



             尼崎の異常な家庭 №14 最終話  



 尼崎の異常な家庭
 №1 折れた乳歯
 №2 狂った位置~永久歯の異常
 №3 病院を探さない親~強制する習い事
 №4 間違いだらけの治療
 №5 矯正できたかもしれない
 №6 口腔崩壊

 №7 父はギャンブル依存症
 №8 周囲と協調しない母
 №9 金切り声
 №10 他人より遠い親
 №11 棘のある他人
 №12 肩身の狭いドライブ
 №13 偉そうな伯母


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