堺市七道の悪意のある女

 自分の歯の事を他人に詳しく説明した事は無い。
 両親が離婚している事は周囲の人に話していた。でも歯のことは上手く話せなかった。なぜなのかは自分でも分からない。
 自分のせいだと思っていた。自分の失敗。
 歯を抜いてしまった事を後悔していた…。
 もう取り返しが付かないものを考えても仕方ない。
 だから避けていた。考える事も。
 それで何となく話をそらし、その場をやり過ごしてきた。
 でもそうじゃない。そうじゃなかった。
 私の抱えている「闇」は育った家庭そのものにあったのだ。 
 単に体の欠損という訳ではなく。

 相手の立場になって物を考えた事もない親だったと。

 友達にすら話せなかったことを、悪意のある他人に言える訳もない。本当の姿など見せられない。自分が惨めになる。 

 *   *   *   *   *   *

棘のある他人 
 生涯のうちで一度だけ、ストレートに歯の事を露骨に指摘された事がある。その人、交際相手の妹だった。確か2、3度目に相手の実家に訪問した時。(成人して引越し、歯医者へ通えなくなってから一年ほど経った頃の事だ。)
 全く関係ない話題の合間に「歯、入れた?」
 と、突然聞いてきた。
 ああいう時、不意を突かれると戸惑うだけで何も答えられない。
 何を聞かれたのかと耳を疑うだけで。
 質問の意味もすぐに飲み込めなかった。

 「ハ、イレタ?」 
 語句にするとたった4文字のこの言葉。
 この音の響きに最初は何かと一瞬、思考が止まった。
 それ位、前の話題とは何の繋がりも無いものだった。


 今になって思うが、
 振るタイミングを見計らってたように思う。

 ブリッジの歯は見てすぐに本物の歯でないと分かる。

 だから初対面の時、気づいてはいたんだろう。


 リビングで話しているその席には、私、交際相手、彼のお兄さん、お兄さんの彼女、そして妹が居た。
 お兄さんの彼女とは初対面だった。


 唐突だった。
 関係ない雑談の合間に突然言う事自体変。第一その会話の前には私はしゃべったり、笑ったりもしていない。
 だからいつ歯の事を聞いてやろうか、タイミングを狙ってんだ。
 初対面の人もいるそういう場を選んでわざと…。 

 お兄さんが連れてきた交際相手は婚約者だったと思う。
 その妹から見ると未来の義理の姉。将来、確実に家族になる人。

 微妙な空気の微妙な位置関係。

 お互い気心の知れた間柄という訳でもなく。
 雑談していてもどこか緊張する顔合わせの場。
 そんな場で
 たとえ会話の流れが不自然でも相手の欠損を突く。
 心の底にある悪意。
 今はそれがよく分かる。


 遠巻きな他人はいい。
 でもそうではない間柄もある。

 「結婚」ってこういう事なんだ。
 他人でしかない身内が増えていく。
 こういう棘が突き刺さるような日常が増えていく。

 一生言われ続ける事になる。

 結婚したら義理の間柄でしかない身内、自分にとって気を許せない他人だけが増える。

 「他人」に囲まれた殺伐とした環境になる。
 これまで以上に…。



 
   

            尼崎の異常な家庭 №11 棘のある他人




 
 尼崎の異常な家庭
 №1 劣悪な環境~歯ブラシのない家

 №7 父はギャンブル依存症
 №8 周囲と協調しない母
 №9 一生分のストレス
 №10 他人より遠い親

 №12 肩身の狭いドライブ
 №13 接点のない親子
 №14 要らない物があふれた家

 

 アンバランスな家~有害な環境

 同級生が抜け出す街で
 裏目に出た職人気質~収入が消える家

 間違えた結婚
 家の中の他人

 やっぱり何が変って、皆の前で他人の体の欠損を指摘した事。
 確かにそれとなく尋ねる人もいた。
 でもそれは話の流れ。
 話題が歯の治療の事だったら聞くのは自然だし。

 この人の聞き方は違う。全く唐突だった。
 そして周囲にも人がいるというのが、大きな違い。

 普通、言わないでしょ。二人きりの時に聞くなら分かるけど。

 皆、口に出して言わないだけ。
 人工歯なのは見て分かる。
 でもそれをどういうタイミングで聞くか。どの状況で聞くか。その人の人格が出る。


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