粉砕された12年

 2006年の秋、坊やは初めて試験を受けた。

 君の初めての受験。
 結果を待ってる間の毎日は気が気でなかったね。 

 上級のグレードテストは、都市部でほぼ毎月行われている。
 各楽器店を通さないから、申し込み手続きは生徒個人の作業になる。
 生徒が動いて報告を受けて 次の手順へアドバイスして進んでいく。
 だから先生はノータッチ。それは有り難いよ。お金立て替えなくて済むからね。
 反面、その都度生徒からの情報無しには 物事は進まない。

 合否の通知も生徒の家へ直接届くんだよね。
 
 テスト当日の雰囲気も様子も 君からは何も伝わってこないので、どうしようもなく私はママに電話を入れた。不合格だった場合、項目別の採点結果によって次にどうするかを判断していく。それが無いと、手も足も出ない。保管して教室まで持ってきてもらわないと…

 当日、数分遅れで失格になってた事を 私が知ったのはそれから10日もたってのこと。
 テストからすでに一ヶ月も経過していた。
 ママがその事実を知ったのは、私より一週間前。
 先生として私が一番真っ先に知るべき情報。
 それが一番あとの、一番後回し。

 わざわざ月謝を払って仕事を依頼しておいて、妨害する。自分で自分の足を引っ張る生徒なんていないよ。小、中学生ならともかく、そんな大人の生徒はどこにもいない。
 嫌ならとうに辞めてるさ。
 ここまで世界観が歪んでたなんてね。

 君にとって、ママにどう思われるかが重大事項。
 その大きな存在の前では 影すら認識されない。存在意義すら感じてもらえない。
 自分の存在する意味が無いと思った。
 先生としての存在を否定されたら終わり。無意味。
 何のために12年も関わってきたのか。
 あの瞬間全てが終わった。    
 

 君は平然としてたよ。あの一ヶ月の間。合否の結果が届くまでは待機状態。比較的自由にレッスン時間を過ごしていい。自分の好きな曲を弾いたり無駄話をしたり、小休止期間だね。君はバンド仲間から着信があったと部屋を出て携帯をかけて話したり、普段はしないことを伸びやかにね。
 「嘘ついてました。」その言葉も平然として発するんだよね。



 それでも一年間は、何とか持ちこたえた。


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック