会社名を言わない女

 2008年の秋、一度だけ、親子と顔を合わせる機会があった。
 そして母親とは数分、言葉を交わした。

 決まったという就職先の会社名を尋ねたけど、母親は答えずに別の方へ会話を流してしまった。
 雑談の流れの合間にだったので、しばらくたってもう一度尋ねたけど、同じように答えることは無かった。
 
 内定した企業名を言わないのは、坊やに大学名を人に言わないよう責め立てたのと同じ理由だね。
 有名じゃない会社だから。一流じゃないからところだから。
 そういう理由みたいね。

 たぶん私だけでなく他の人から聞かれても、答えないんだろうね。言う必要が無く告げずに済むのなら、そうしてるんだと思う。親戚や友人知人、ご主人の会社関連の人達、周囲の人皆に同じ対応してるはず。

 ここまで気を許すことなく、ガードして守りたいものって何なんだろう。
 
 例えば親戚や、友達に弱味を見せたくないとか、そういう事で聞かれて言葉を濁すのは有りかもしれない。
 対抗意識を持っていたり、張り合う関係であったり、それなら少しは分かるけど。
 私はこのお宅とプライベートな関わりは無いし、しゃべったとしてどんな支障をきたすの?
 通っていた音楽教室の先生にまで、隠さないと守れないものっていったい何なのだろうと思う。
 虚勢を張っていないと成り立たない。
 それほどに一流、ブランド信仰に取り憑かれてるのかと驚いてしまう。
 
 子供が有名大学と一流企業に所属してることでしか、他人と対峙できないとは。



 裏を返せばそれは「自分は一流です」って前提があるから生まれる意識。
 私からすれば自意識過剰のように思える。
 露骨に明かさず、隠す美学のつもりみたいだけど。
 品位を保つどころか、既に欠点をさらし過ぎてて私には効果無しだね。
 他人への配慮が一流とは言えないでしょ。
 習っていた間の先生への扱い、姿勢は三流以下だったじゃない。
 私が味わったのは、人間的なズルさとセコさと冷たさ、それだけ。

 
 平気で醜い姿をさらしておいて、自分の子供の就職先は格好つけて隠す。



 あまりにもアンバランスでおかしいよ。
 


 それに息子さんに失礼。その会社にだって失礼だよ。
 息子さん、いい気はしないよ。
 じわじわと子供を傷つけてることに気づかない。
 自分の理想が先にあって、そこから外れると子供に不平不満をぶつける。
 こうやって小さな時から否定的なイメージを植え付けてきたんだよね。

 有名大学と一流企業に所属さえしたらいい。それが全てで後は何でも有り。
 だから価値基準、変だって言うのさ。





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