平気で嘘をつく子供

 京阪、枚方市駅前から高槻市行きのバスが出ている。
 それに乗って終点、JR高槻市駅まで。
 JRに乗り代えてひと駅。

 その駅前に生徒の通った教室がある。
 
 交通機関を利用するとしたら乗り継ぎが必要な互いの立地。

 中学生の僕がひとりなら、バスと電車で、または自転車で通えないこともない。
 男の子だから高校生、大学生になれば、バイクという手もある。


 けど、生徒は20歳を過ぎてもママが車で送り迎えした。

 中学生の時、高槻市から引っ越して以来、ずっと。
 週一回、ママの送迎で。
 レッスンのために。

 

 長い間、それについて感謝していた。
 遠方からわざわざ、通う生徒は少ない。
 引っ越せば、たいてい近くの教室に移る。
 それが当たり前だし、普通のことだと思うから、ここの教室を離れることなく、続けてくれることに感謝していた。
 

 でもそれは無用の愚かな感情だった。


ノンフィクション
『エリート志向の闇~平気で嘘を付く子供』の紹介記事です。

「粉砕された12年」 
 生徒が上級のグレードテストを受けた。
 結果を待ち続ける私に返ってきたのは、「嘘ついてました。」のひとことだった。

 当日遅刻して失格になっていたのだ。
 その日のうちに連絡するならともかく、一ヶ月も経ってから、ようやく本当の事を知らせる。

 母親も何も言ってこない。
 私がどれだけテストの結果を気にしてるか、声の調子でわかってたはず。
 「もう悠長なことはしてられない。」私は母親に連絡しそう言った。
 本人とじゃ話にならないから、昼間、自宅に電話した。
 その後、事実を知ったらその場で連絡するのが筋。
 携帯電話もそのために持ってるはず。
 受験すらしてなかったなんて。



 上級のグレードテストは、都市部でほぼ毎月行われている。
 各楽器店を通さないから、申し込み手続きは生徒個人の作業になる。
 だから先生はノータッチ。
 反面、その都度生徒からの情報無しには、物事は進まない。
 合否の通知も生徒の家へ直接届く。
 情報が入らないと先生は立ち往生して身動き取れない。
 

 この親子は素人判断で勝手に全部決め込んで。
 専門職の他人の領域だという事が分かっていない。

 どうでもいいクレームだけは素早く付けてくる。
 小銭にだけは抜かりがない母親。
 油断もスキもない。
 わざわざ月謝を払って仕事を依頼しておいて、妨害する。
 そんな大人の生徒はどこにもいない。
 嫌ならとうに辞めてる。


 

 待っても意味のなかった一ヶ月。



 先生として私が一番真っ先に知るべき情報。
 それが一番あとの、一番後回し。

 この時の一件が、この親子の悪行の集大成。
 二人の本質の全てさ。
 クレームの電話は素早く、肝心な報告は入れない。
 大切な情報は止めてしまう。
 それで習いに来て、合格に向けて指導しろと要求する。
 自分たちには欠点なんてありませんみたいに澄ましてて、絶対に本音を言わない。本心を見せない。
 人を閉め出して指図だけする。
  
 指図と文句をつけてくるだけで、自分たち二人で勝手に決めて、それで将来合格すると思い込んでる。私のことも指導者とは見てないよね。
 自分に甘く 他人に厳しく 
 それでも通用してきたんだよね。
 
 君は平然としてたよ。あの一ヶ月の間。合否の結果が届くまでは待機状態。比較的自由にレッスン時間を過ごしていい。自分の好きな曲を弾いたり無駄話をしたり。バンド仲間から着信があったと部屋を出て携帯をかけて、普段はしないことを伸びやかにしていた。

 「嘘ついてました。」その言葉も平然として発したよね。


                 
「上昇志向の果て」 
 これをさかのぼる2年前、2004年の秋に生徒が教室に財布を置き忘れる出来事があった。
 高校3年の時。

 レッスンが終わって帰宅し、玄関の扉を開けると電話が鳴っていた。
 側まで行って受話器を取ろうとしたが、間に合わず切れてしまった。
 着信データを見ると、未登録の携帯電話からだった。
 知人のは登録済みだから、気にせずそのままにしておいた。
 その後、十数分はたったか再びベルが鳴った。
 
 財布を教室に置き忘れたという母親から連絡だった。
 すでに自宅へ戻り、固定電話からの通話だった。


 教室と私の家は徒歩10分ほどの距離。
 仕方ないから「明日の朝見に行きますから。」ということで電話を切った。
 


 母親にとって、もちろん生徒にとっても緊急の用事ってことだね。
 それは良く伝わってきた。
 もちろん財布は大切だからね。

 大切だから、電話した。連絡を入れた。
 自分たちにとって大切なことだけ連絡を入れる。
 相手が情報を必要としてても、自分が億劫に感じたら、連絡しない。

 それがこの親子のやり方。
 人を使いに走らせる時は、何の遠慮も無く、ためらいも無く、しっかりコンタクトを取ってくる。
 一度掛けて不在でも、あきらめずに再度掛けなおす。
 クレームの電話も速くかかってきたけど、この時が一番速かったね。
 超速攻。
 あの未登録の着信は帰宅途中に携帯からかけてきたものだった。



 サイフは現物だからね。
 急がないと紛失してしまう。
 急いだら発見してサイフを取り戻せる。
 でもテストが失格になったことは、どうにもできないアクシデント。
 納めた受験料は返ってこないし、知らせるのを急いでも意味が無い。
 この母親にとって一番大切なのは、そういう現物。
 他人の気持ちは優先順位の一番最後。
 これがこの母親の教育方針さ。
 小さい時から子供に繰り返し刷り込んできた。

 そして見事にそういう男の子に仕上がった。
  





「豊かさに囲まれた貧困」 
 本当に裕福な家というのは、車を2台所有して用途によって使い分ける。
 適材適所で物を使い分けて、無駄や無理を減らせる。

 本当に裕福な家というのは、バランスが取れてて余裕が有る。
 
 収入が多くても、ローンで引かれて手元に入る現金が少なかったら、結局苦しい家。

 お父さんは自分が働いて稼いでるから、自信が有る。
 お母さんは家計を完全コントロールしてるから強い。

 でも子供は?
 金の事を心配しても子供だから自分ではどうにもできない。
 母親の支配下に居る事が生きる術になってくる。
 母親が間違えてたって構わないんだよ。それが生きる術なんだから。
 そういう生き方を小さい時から体得してるんだね。
 母親の機嫌を伺って、逆らわないように、波風立てないように。
 
 

 外側から見ると子供に尽くす、教育熱心なお母さん。
 普通の感覚だと子供の送迎は、母親にとって負担や義務として映る。
 なので長続きさせて偉い方、と周囲の人達はそう見る。
 
 でも違う。
 音楽教育に熱心なわけじゃない。
 だから要項も読まない。目も通さない。
 テストの曲数すら知らなかった。
 音楽の事なんて専門的なことは分かってないし、理解してない。
 ブランドや肩書きが好きなだけ。
 子供がグレードを取得する。その響きが好きなだけで実体を分かってはいない。
 発表会とか華やかな事や外側に憧れるだけの人。


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「冷淡で無神経な親子」 
 君の母親は他人に対して冷淡で、支出を徹底管理して子供を育てた。

 そういう相手との付き合い方を、君は心得ている。
 調子を合わせて受け流す事を学んだ。
 自分もそうなって相手と同調して、家庭での居場所を確保してきた。
 人の気持ちは分かるけど、分からない振りをしてとぼけたり、はぐらかしたりして、自分たちが損をするのを避けてきた。
 
 
 君は平気で嘘のつける大人になり、同時に信頼関係より自分の有益を選ぶ人間になった。


 車に乗って教室に通ってさえいれば、当たりさわり無くやり過ごせる。
 だから気持ちが離れた状態でも続けたんだよ。

 この人にとって、大学での生活はかけがえの無い大切な物。
 誰にも邪魔されたくない。
 うるさい母親の機嫌を損ねなければ全ては順調に行く。
 それがクリアできたら後は適当適当。
  

 バイトで得たお金がサークル活動や交際費に回っていくのは当然だね。
 
 レッスンの事は一歩教室を出てしまえば忘れる。
 その程度の存在。
そういう習い方をされると、先生は嫌な気分になる。先生は不快な思いをする。
 誰でもそれ位のことは分かる。君も頭では理解できる。
 理屈で分かってはいるが、心情まで思いやる熱いハートは持っていない。
 相手の立場になって、自分がどうしたらいいのかは考えないし、動かない。


 育つ過程で母親に同調し、身に染み付いた生き様だから。


「調子を合わせる怖さ」  
 君が同調してきたのは、包容力も慈愛も欠落した殺伐とした世界観。
 その恐ろしさを君は解ってない。

 君の母親は実体を見ないで、自分の理想に子供を近づけるよう行動してきた。
 たぶん受験する大学選びもそれと同じパターンで。
 地に足が着いていない。
 音楽教室では優秀な子が選択する特別ハイレベルなコースを受講させた。順当に習うより、子供の負担やプレッシャーは大きい。12年でじっくり取得していくものを6年間で上り詰める。レパートリーは足りず、実力を蓄える前に次のステップに行ってしまう。

 レッスン代と発表会費は普通の2倍かかる。教える側に無理を押し付けてでも、強硬に通してきた。それをもう当たり前だと思っている。
 外側の笑顔や立ち居振る舞いからは、見えて来ない無神経さ。
 他人や物事に対する理解や情愛が薄い。
 それが当たり前の習慣の中で君は大きくなったんだよ。



 音楽に関わる者にとって致命傷。

 何の感動も与えない。機械的な技術だけが優れている。
 自分だけの世界でまとまってしまって、自己完結している。
 


ノンフィクション
『エリート志向の闇~平気で嘘をつく子供』の紹介記事でした。

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 あらすじ 

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