棘のある他人~説明できない闇

 私の抱えている「闇」は育った家庭そのものにあったのだ。 
 相手の立場になって物を考えた事もない。
 そんな親に育てられた。
 考えないようにしていたし、考えるのも避けていた。
 例え分かっていたとしても、リビングでの雑談中に簡単に話せるような事ではない。




 生涯のうちで一度だけ、ストレートに歯の事を露骨に指摘された事がある。その人、交際相手の妹だった。確か2、3度目に相手の実家に訪問した時。(成人して引越し、歯医者へ通えなくなってから一年ほど経った頃の事だ。)
 全く関係ない話題の最中に「歯、入れた?」
 と、突然聞いてきた。
 ああいう時、不意を突かれると戸惑うだけで何も答えられない。
 何を聞かれたのかと耳を疑うだけで。
 質問の意味もすぐに飲み込めなかった。

 「ハ、イレタ?」 
 語句にするとたった4文字のこの言葉。
 この音の響きに最初は何かと一瞬、思考が止まった。
 それ位、前の話題とは何の繋がりも無いものだった。


 今になって思うが、
 振るタイミングを見計らってたように思う。
 ブリッジの歯は見てすぐに本物の歯でないと分かる。
 だから初対面の時、気づいてはいたんだろう。

 リビングで話しているその席には、私、交際相手、彼のお兄さん、お兄さんの彼女、そして妹が居た。
 お兄さんの彼女とは初対面だった。

 唐突だった。
 関係ない雑談の合間に突然言う事自体変。
 第一その会話の前には私はしゃべったり、笑ったりもしていない。
 だからいつ歯の事を聞いてやろうか、タイミングを狙ってんだ。
 初対面の人もいるそういう場を選んでわざと…。 


 微妙な空気の微妙な位置関係。

 それぞれが気心の知れた間柄という訳でもなく。
 当たり障りのない世間話などをしてお茶を濁す。
 どこか緊張する顔合わせの場。
 そんな場で
 たとえ会話の流れが不自然でも相手の欠損を突く。

 心の底にある悪意。
 今はそれがよく分かる。







 自分の歯の事を他人に詳しく説明した事は無い。

 両親が離婚している事は周囲の人に話していた。でも歯のことは上手く話せなかった。なぜなのかは自分でも分からない。
 自分のせいだと思っていた。自分の失敗。
 歯を抜いてしまった事を後悔していた…。
 もう取り返しが付かないものを考えても仕方ない。
 だから避けていた。考える事も。
 それで何となく話をそらし、その場をやり過ごしてきた。
 でもそうじゃない。そうじゃなかった。
 私の抱えている「闇」は育った家庭そのものにあったのだ。 
 単に体の欠損という訳ではなく。

 相手の立場になって物を考えた事もない。
 そんな親に育てられた。
 考えていなかったし、考えるのを避けていた。

 例え分かっていたとしても、リビングでの雑談中に簡単に話せるような事ではない。




           尼崎の異常な家庭 №11 棘のある他人





 尼崎の異常な家庭
 №1 折れた乳歯
 №2 永久歯の異常
 №3 病院を探さない親
 №4 間違いだらけの治療
 №5 矯正できたのに
 №6 口腔崩壊
 №7 父はギャンブル依存症
 №8 周囲と協調しない母
 №9 一生分のストレス
 №10 他人より遠い親

 №12 肩身の狭いドライブ
 №13 肝心なものが無い家
 №14 要らない物があふれた家

 

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