悪意のある一言~堺市七道の女

棘のある他人 
 生涯のうちで一度だけ、ストレートに歯の事を露骨に指摘された事がある。その人、交際相手の妹だった。確か2、3度目に相手の実家に訪問した時。(成人して引越し、歯医者へ通えなくなってから一年ほど経った頃の事だ。)
 全く関係ない話題の合間だった。雑談していて当たり障りのない話をボチボチしていて、少し会話が途切れた、そんな空白の間。
 「歯、入れた?」
 と、突然聞いてきた。
 ああいう時、不意を突かれると戸惑うだけで何も答えられない。
 何を聞かれたのかと耳を疑うだけで。
 質問の意味もすぐに飲み込めなかった。

 「ハ、イレタ?」 
 語句にするとたった4文字のこの言葉。
 この音の響きに最初は何かと一瞬、思考が止まった。
 それ位、前の話題とは何の繋がりも無いものだった。


 今になって思うが、
 振るタイミングを見計らってたように思う。

 ブリッジの歯は見てすぐに本物の歯でないと分かる。

 だから初対面の時、気づいてはいたんだろう。


 リビングで話しているその席には、私、交際相手、彼のお兄さん、お兄さんの彼女、そして妹が居た。
 お兄さんの彼女とは初対面だった。


 唐突だった。
 関係ない雑談の合間に突然言う事自体変。第一その会話の前には私はしゃべったり、笑ったりもしていない。
 だからいつ歯の事を聞いてやろうか、タイミングを狙ってんだ。
 初対面の人もいるそういう場を選んでわざと…。 

 お兄さんが連れてきた交際相手は婚約者だったと思う。
 その妹から見ると未来の義理の姉。将来、確実に家族になる人。

 微妙な空気の微妙な位置関係。

 お互い気心の知れた間柄という訳でもなく。
 雑談していてもどこか緊張する顔合わせの場。
 そんな場で
 たとえ会話の流れが不自然でも相手の欠損を突く。
 心の底にある悪意。
 今はそれがよく分かる。


 遠巻きな他人はいい。
 でもそうではない間柄もある。

 「結婚」ってこういう事なんだ。
 他人でしかない身内が増えていく。
 こういう棘が突き刺さるような日常が増えていく。

 一生言われ続ける事になる。

 結婚したら義理の間柄でしかない身内、自分にとって気を許せない他人だけが増える。

 「他人」に囲まれた殺伐とした環境になる。
 これまで以上に…。


 やっぱり何が変って皆の前で他人の体の欠損を指摘した事。
 確かにそれとなく尋ねる人もいた。
 でもそれは話の流れ。
 話題が歯の治療の事だったら聞くのは自然だし。

 伊藤佳美の聞き方は違う。全く唐突だった。そして周囲にも人がいるというのが、大きな違い。

 普通、言わないでしょ。二人きりの時に聞くなら分かるけど。


    

            尼崎の異常な家庭 №11 棘のある他人



家の中の他人
 ミシンの騒音とアイロンを台に叩く鈍い音、そんな作業場で暮らした。私が生まれた時からの日常だ。
 父親はバイク(カブ)で役所へ出勤する。だから日中は家に居ない。家は母の仕事場だった。一日中ミシンを踏むか手縫いの細かい作業をしていた。

 私は母の仕事しか知らない。
 父親の役所での仕事を具体的に聞いた事はない。
 会話が無かったからそういう話題も出なかったように思う。
 水道局だったはずだ。知っていたのはそういう部署に勤務しているという事くらいだ。
 会社とか市役所でどんな業務が行われているとか、子供の頃は全く分からなかった。自分の親なのに接点は無かった。
 母の仕事だけは側で、生活するその空間で見てきた。
 見てきただけで何も教わらなかった。
 洋裁技術の何一つ教わった事は無い。
 子供に何かを教えるのは手間隙かかる。
 それでなくても仕事で忙殺されている母は私が話しかけても、邪魔にして相手にはしなかった。
 だから接点はない。
 
 
 家に家族がいても孤独な生活。


 衣食住だけがあった。
 食べる物と着替えとお風呂と睡眠を取る場所。
 木造の借地の上に建てられた家に住んでいた。
 冬は底冷えと隙間風で寒い。
 コタツにもぐるだけの冬の生活。
 
 
 それでけの家庭。

 父には趣味が無い。
 競艇に行く事が生きがいなので他に趣味は持っていない。
 サボテンを置いたり、熱帯魚を一時期飼っていた事はある。
 家に居るときはひとりで狭い部屋でテレビを見ていた。
 野球観戦やドラマ(海外ドラマ)くらいだ。

 人に理解してもらえないので話さないのが益々加速していく。
 

 母は自分を取り繕う事だけ。
 他人にも親戚にも見栄を張る、虚勢を張る。
 自分を大きく見せたり、立派に見せたり、素晴らしい家族に見せようとする。
 だから私の成績が振るわないと機嫌が悪い。
 担任の先生に褒められないと狂ったようになる。

 私を見ていない。

 見えてはいるが、見ていない。


 
 尼崎の異常な家庭
 №1 劣悪な環境~歯ブラシのない家

 №7 父はギャンブル依存症
 №8 周囲と協調しない母
 №9 一生分のストレス
 №10 他人より遠い親

 №12 肩身の狭いドライブ
 №13 接点のない親子
 №14 要らない物があふれた家

 

 アンバランスな家~有害な環境

 同級生が抜け出す街で
 裏目に出た職人気質~収入が消える家

 間違えた結婚


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